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水戸地方裁判所日立支部 平成7年(ワ)94号 判決 1997年1月27日

主文

一  被告は、原告に対し、金四四八万七〇〇〇円及びこれに対する平成六年九月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告は、原告に対し、金六三一万六〇〇〇円及びこれに対する平成六年九月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1 原告は、平成三年一一月二四日、被告から日産シーマタイプIIリミテッド(自動車登録番号水戸《番号略》、型式E-FGY32、車台番号FGY32-209865、以下「本件車両」という。)を購入した。なお、代金については、原告は六六四万五〇〇〇円であると主張し、被告は六五〇万四九七三円であると主張している。

2 原告は、平成五年八月末ころ、本件車両のエアコンの排水不良から床マットが水浸しになるとのトラブルが起きたという理由で(なお、この時に、エンジンのトラブルが発生した旨原告が述べていたか否か、争いがある。)、被告に修理を依頼し、同年九月一四日に修理が完了したとして一旦本件車両の引渡しを受けた。

3 原告は、同月二三日、走行中にエンジンの回転数があがらなくなる現象が生ずるとして、被告に本件車両を引き渡した。その後、被告が修理をして原告に本件車両を引き渡そうとしたが、原告は、安全性につき得心の行く説明が得られるまで受領できないと言って受領を拒絶した。

4 被告は、平成五年一一月二五日付で当庁に供託所の指定及び供託物保管者の選任の申立をし、その審理中の平成六年二月二六日、原告は暫定的に本件車両を受領した。

二  争点

原告は、本件車両につき、平成四年二月ころから、走行中にエンジンが急ブレーキをかけたようになる現象が起きること及びエアコンの排水不良から床マットが水浸しになる等のトラブルが発生し、これらの状態は、被告が本件車両を修理した後も改善されていないとして、修補不能の瑕疵が存在することを理由に、本件車両の売買契約を解除する旨意思表示しているものである。

これに対し、被告は、原告主張のエアコンの排水不良の事実は認め、これに対しては、エアコンから出る水滴を車外に出すための修理及び床マットの交換をして瑕疵は補修されたと主張し、また、エンジンのトラブルに関する原告の主張に対しては、原告主張の事実は確認できないが、念のためにトラクションコントロールユニット及びスロットルチャンバーを交換したものであって、原告が主張する瑕疵は存在しないとして、原告の解除を争っているものである。

第三  争点に対する判断

一  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 原告は、前記のとおり本件車両を被告から買い受けたが、代金は、付属品を含め六六四万五〇〇〇円であった。

2 原告は、本件車両が納入された平成三年一二月ころから平成五年春ころまで本件車両を使用していたが、その間の平成四年二月及び四月の二回、走行中にブレーキペダルを踏まないのに突然減速し、ABSランプが点灯したままの状態になることがあった。

この時は、数十秒後に速度が加速されたこと及びエンジンを一旦切り、かけ直すとABSランプが消えたため、原告は本件車両を修理に出さなかった。

3 原告は、平成五年春ころから、子秀比古(以下「訴外秀比古」という。)と車を交換して使用するようになり、それ以後、訴外秀比古が本件車両を使用するようになった。

4 訴外秀比古は、前記「争いのない事実」記載のとおり、同年九月一四日に本件車両を受領し、同月二三日に本件車両を運転していた際、常磐自動車道を走行中に計器盤のランプが全部点灯されたままの状態になり、しかも、国道六号線上を時速約八〇キロメートルで走行中、ブレーキペダルを踏まないのに突然時速三〇キロメートル位に減速し、アクセルペダルを踏んでも正常に加速しない状態になった。

5 原告は、翌日の九月二四日に右の事実を被告に通知し、本件車両を他の車両と交換するよう要求した。

被告は、原告の交換の要求には応じなかったが、本件車両を調査するということで預かり、トラクションコントロールユニット及びスロットルチャンバーを交換した。その後、原告に本件車両を引き渡そうとしたが、原告は、前記「争いのない事実」記載のとおりの経過により本件車両を受領した。

6 原告は、平成六年二月二六日に本件車両を受領した後はほとんど使用していないが、同年八月一四日ころに原告が本件車両を運転した際に、時速三〇キロメートル以上に加速できない現象が生じ、また、同年六月一五日に訴外秀比古が本件車両を運転した際には、エアコンの排水不良のため助手席の床に水がこぼれ落ち、速度が時速六〇キロメートルから時速三〇キロメートル位に突然落ちる現象が生じた。

二  右に認定したように、本件車両を運転した場合、エアコンの排水不良により水滴が助手席の床の上に落ち、床が水で濡れること、時々ではあるが走行中に突然速度が落ち、アクセルペダルを踏んでもしばらく加速できない状態になることの各事実が認められる。

そして、この瑕疵の内容は、通常の乗用自動車にはあってはならないものであるし、その程度は、被告が修理をし、かつ、不具合はないはずであると主張することと合わせて考えると、修理不可能なものと判断しなければならない。

そうすると、原告は、本件車両を買い受けた目的を達することができないものであるから、原告の本件解除は有効なものである。

なお、原告の解除の意思表示及び一〇日の猶予期間を置いた支払催告が平成六年九月三日、被告に到達したことは、《証拠略》によって認められる。

三  原告は、売買契約解除により填補されるべき損害として、本件車両の売買代金から二年間の使用料相当額として二割を控除した五三一万六〇〇〇円及び弁護士費用一〇〇万円の合計六三一万六〇〇〇円並びにこれに対する催告期限の日である平成六年九月一三日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、前記認定のように、原告は、平成三年一二月初めから平成五年九月末まで約二年間本件車両を使用したこと、但し、その間、数回に恒り走行中に異常な状態が生じ、正常な形での使用はできなかったこと等の事情を考慮すると、本件車両の売買代金から使用料相当額として四割を控除し、かつ、弁護士費用として五〇万円を認めるのが相当である。

従って、被告が原告に支払うべき損害賠償額は、六六四万五〇〇〇円の六割である三九八万七〇〇〇円に五〇万円を加算した四四八万七〇〇〇円である。

第四  結論

原告の本訴請求のうち、金四四八万七〇〇〇円及びこれに対する平成六年九月一三日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上和之)

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